书城文学《万叶集》的世界
18988600000034

第34章 附录(3)

出で立てる富士の高嶺は天雲もい行きはばかり飛ぶ鳥も 飛びも上らず燃ゆる火を雪もち消ち降る雪を火もち消ちつつ 言ひも得ず名付けも知らずくすしくもいます神かもせの海と 名付けてあるもその山のつつめる海ぞ富士川と人の渡るも その山の水のたぎちぞ日の本の大和の国の鎮めとも います神かも宝ともなれる山かも駿河なる富士の高嶺は 見れど飽かぬかも

反歌

03/0320 富士の嶺に降り置く雪は六月の十五日に消ぬればその夜降りけり

03/0321 富士の嶺を高み畏み天雲もい行きはばかりたなびくものを

詠水江浦嶋子一首[并短歌]

09/1740 春の日の霞める時に住吉の岸に出で居て釣舟のとをらふ見れば いにしへのことぞ思ほゆる水江の浦島の子が鰹釣り鯛釣りほこり七日まで家にも来ずて海境を過ぎて漕ぎ行くに海神の神の娘子にたまさかにい漕ぎ向ひ相とぶらひ言成りしかばかき結び 常世に至り海神の神の宮の内のへの妙なる殿にたづさはり ふたり入り居て老いもせず死にもせずして長き世にありけるものを 世間の愚か人の我妹子に告りて語らくしましくは家に帰りて 父母に事も告らひ明日のごと我れは来なむと言ひければ 妹が言へらく常世辺にまた帰り来て今のごと逢はむとならば この櫛笥開くなゆめとそこらくに堅めし言を住吉に帰り来りて 家見れど家も見かねて里見れど里も見かねてあやしみと そこに思はく家ゆ出でて三年の間に垣もなく家失せめやと この箱を開きて見てばもとのごと家はあらむと玉櫛笥少し開くに 白雲の箱より出でて常世辺にたなびきぬれば立ち走り叫び袖振り こいまろび足ずりしつつたちまちに心消失せぬ若くありし 肌も皺みぬ黒くありし髪も白けぬゆなゆなは息さへ絶えて 後つひに命死にける水江の浦島の子が家ところ見ゆ

反歌

09/1741 常世辺に住むべきものを剣大刀汝が心からおそやこの君

登筑波嶺為嬥歌會日作歌一首[并短歌]

09/1759 鷲の住む筑波の山の裳羽服津のその津の上に率ひて娘子壮士の

行き集ひかがふかがひに人妻に我も交らむ我が妻に人も言問へ

この山をうしはく神の昔より禁めぬわざぞ今日のみは

めぐしもな見そ事もとがむな[嬥歌者東俗語曰賀我比]

反歌

09/1760 男神に雲立ち上りしぐれ降り濡れ通るとも我れ帰らめや

第四期

1.大伴坂上郎女

大伴坂上郎女橘歌一首

03/0410 橘を宿に植ゑ生ほし立ちて居て後に悔ゆとも験あらめやも

和歌一首

03/0411 我妹子がやどの橘いと近く植ゑてし故にならずはやまじ

大伴坂上郎女怨恨歌一首並短歌

04/0619 おしてる難波の菅のねもころに君が聞こして年深く長くし言へば まそ鏡磨ぎし心をゆるしてしその日の極み波の共靡く玉藻の かにかくに心は持たず大船の頼める時にちはやぶる神か離くらむ うつせみの人か障ふらむ通はしし君も来まさず玉梓の使も見えず なりぬればいたもすべなみぬばたまの夜はすがらに赤らひく 日も暮るるまで嘆けども験をなみ思へどもたづきを知らに たわや女と言はくもしるくたわらはの音のみ泣きつつた廻り 君が使を待ちやかねてむ

反歌

04/0620 初めより長く言ひつつ頼めずはかかる思ひに逢はましものか

2.大伴家持

十一年己卯夏六月大伴宿禰家持悲傷亡妾作歌一首

03/0462 今よりは秋風寒く吹きなむをいかにかひとり長き夜を寝む

又家持見砌上瞿麥花作歌一首

03/0464 秋さらば見つつ偲へと妹が植ゑしやどのなでしこ咲きにけるかも

移朔而後悲嘆秋風家持作歌一首

03/0465 うつせみの世は常なしと知るものを秋風寒み偲ひつるかも

大伴宿禰家持初月歌一首

06/0994 振り放けて三日月見れば一目見し人の眉引き思ほゆるかも

大伴宿禰家持鴬歌一首

08/1441 うち霧らひ雪は降りつつしかすがに我家の苑に鴬鳴くも

大伴家持霍公鳥歌一首

08/1477 卯の花もいまだ咲かねば霍公鳥佐保の山辺に来鳴き響もす

大伴宿禰家持雪梅歌一首

08/1649 今日降りし雪に競ひて我が宿の冬木の梅は花咲きにけり

賀陸奥國出金詔書歌一首并短歌

18/4094 葦原の瑞穂の国を天下り知らしめしけるすめろきの 神の命の御代重ね天の日継と知らし来る君の御代御代 敷きませる四方の国には山川を広み厚みと奉る御調宝は 数へえず尽くしもかねつしかれども我が大君の諸人を 誘ひたまひよきことを始めたまひて金かも たしけくあらむと思ほして下悩ますに鶏が鳴く東の国の 陸奥の小田なる山に黄金ありと申したまへれ御心を 明らめたまひ天地の神相うづなひすめろきの御霊助けて 遠き代にかかりしことを我が御代に顕はしてあれば食す国は 栄えむものと神ながら思ほしめしてもののふの八十伴の緒を まつろへの向けのまにまに老人も女童もしが願ふ心足らひに 撫でたまひ治めたまへばここをしもあやに貴み嬉しけく いよよ思ひて大伴の遠つ神祖のその名をば大久米主と 負ひ持ちて仕へし官海行かば水漬く屍山行かば草生す屍大君の 辺にこそ死なめかへり見はせじと言立て大夫の清きその名を いにしへよ今のをつづに流さへる祖の子どもぞ大伴と 佐伯の氏は人の祖の立つる言立て人の子は祖の名絶たず大君に まつろふものと言ひ継げる言の官ぞ梓弓手に取り持ちて 剣大刀腰に取り佩き朝守り夕の守りに大君の 御門の守り我れをおきて人はあらじといや立て 思ひし増さる大君の御言のさきの[一云を]聞けば貴み[一云貴くしあれば]

反歌三首

18/4095 大夫の心思ほゆ大君の御言の幸を[一云の]聞けば貴み[一云貴くしあれば]

18/4096 大伴の遠つ神祖の奥城はしるく標立て人の知るべく

18/4097 天皇の御代栄えむと東なる陸奥山に黄金花咲く

天平勝寶二年三月一日之暮眺矚春苑桃李花作二首

19/4139 春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子

19/4140 吾が園の李の花か庭に散るはだれのいまだ残りたるかも

宴席詠雪月梅花歌一首

18/4134 雪の上に照れる月夜に梅の花折りて送らむはしき子もがも

18/4135 我が背子が琴取るなへに常人の言ふ嘆きしもいやしき増すも

遙聞泝江船人之唱歌一首

19/4150 朝床に聞けば遥けし射水川朝漕ぎしつつ唄ふ舟人

二月十九日於左大臣橘家宴見攀折柳條歌一首

19/4289 青柳の上枝攀ぢ取りかづらくは君が宿にし千年寿くとぞ

廿三日依興作歌二首

19/4290 春の野に霞たなびきうら悲しこの夕影に鴬鳴くも

19/4291 我が宿のい笹群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも

廿五日作歌一首

19/4292 うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しも独し思へば

春日遅々、倉庚正啼。悽惆之意、非歌難撥耳。仍作此歌、式展締緒。但此巻中不稱作者名字、徒録年月所處縁起者、皆大伴宿祢家持裁作歌詞也。

在舘門見江南美女作歌一首

20/4397 見わたせば向つ峰の上の花にほひ照りて立てるは愛しき誰が妻

為防人情陳思作歌一首[并短歌]

20/4398 大君の命畏み妻別れ悲しくはあれど大夫の心振り起し取り装ひ門出をすればたらちねの母掻き撫で若草の妻は取り付き平らけく我れは斎はむま幸くて早帰り来と真袖もち涙を拭ひむせひつつ言問ひすれば群鳥の出で立ちかてにとどこほりかへり見しつついや遠に国を来離れいや高に山を越え過ぎ葦が散る難波に来居て夕潮に船を浮けすゑ朝なぎに舳向け漕がむとさもらふと我が居る時に春霞島廻に立ちて鶴が音の悲しく鳴けばはろはろに家を思ひ出負ひ征矢のそよと鳴るまで嘆きつるかも

20/4399 海原に霞たなびき鶴が音の悲しき宵は国辺し思ほゆ

20/4400 家思ふと寐を寝ず居れば鶴が鳴く葦辺も見えず春の霞に